closing eyes〜瞳を閉じて〜
21::闇2 〜In the darkU〜
「…これが…外と中を繋ぐ扉なんやな…」
剛はすっと瞳を細めると、冷たい扉に掌を這わせた。
それを光一は一歩後ろで眺める。
「…今まで大変やった……光一にも逢えんくて……寂しかった…」
剛は嘆くように言うと扉から静かに身を離した。
光一の方へ振り返り、切ない笑顔で微笑う。
「それでも…こうやって光一は僕を迎えに来てくれた………」
剛は光一の首に自分の腕をやると、そっと光一へと身を預けた。
光一は両腕を横に垂らしたまま、前を見据えている。
「僕は光一とやったら…何処でもいける…何でも出来る……」
ぎゅっと光一を抱く腕に力を込めて、剛は小さく呟く。
「やから…僕を外の世界へ……連れて行ってや…」
その言葉に光一はピクリと身体を揺らすと、自分に身を寄せている剛へと視線を下ろした。
光一は一度固く瞳を閉じ、ゆっくりと開く。
そして剛の身体をゆっくりと ――- 離した。
「あんな、剛。外に行く前に質問があんねん。」
「…?何?」
剛は不思議に不安を含めた瞳で光一を見る。
光一の瞳は何かを願うように、切なく揺らいでいた。
「さっき…中に知り合いの科学者がおるって言うたやん。あれ、ホンマは女やねん。」
「え…?ならさっきのは嘘?」
剛はふっと不安の色を表情に出す。
光一はその表情を見ると、すぐに訂正するように首を振った。
「あ、でも彼女とかやない。その人はもう結構歳で……今、息子と二人で暮らしとるばあさんや。」
「あ。そうなん。ビックリしたやん……彼女がおるからやっぱり行かれへんって言うんやと」
「その人はもうひとりの息子を待っとる。兄貴の元で苦しんでるそいつが戻ってくる日を。罪を償える日を。」
淡々と語る光一の目は剛を捕らえたまま。
剛は表情を変えない。
「血に染まった研究所を捨てて、今は路地裏の小さな家で……今でも待っとるんや。」
剛は表情を ― 変えない。
「リクばぁさんは……今でも…」
光一は何かを願うように繰り返す。
それでも剛の表情は ―――
「なぁ、剛。その息子は誰のことか…お前は知っとるか?」
光一の声が廊下に響いた。
剛は表情も変えないまま、光一を見つめる。
そして、光一は拳を握る力を強めた。
「その息子って誰のことか…分かるか?剛。」
沈黙が続いて…剛は静かに答えた。
「僕は知らへんよ?その息子がEPやったら名前聞いたらわかるかもしれへんけど……」
剛は考えるように首を傾げたが、思いつかないのか、すぐに光一へと視線を戻した。
光一は固く掌を握り、耐えるように俯く。
剛はそんな光一をしばらく見ていたが、ふっと表情を和らげると再び光一に絡みついた。
「人探しまでやったげるなんて、光一は相変わらず変なところでお人よしなんやな。変わっとらんわ。」
くすりと笑うと、剛は光一の胸に顔を埋める。
「なぁ、光一。ずっとこうやっといて。今まで逢えんかった分…こうやって」
光一は唇を噛締めたまま、天井を仰ぐと剛の身体を何よりも強く抱きしめた。
剛は満足そうに小さく笑うと、さらに腕に力を込める。
そして…視線の先にいるハルカを見やって、静かに…微笑った。
音も立てずハルカは拳銃を構える。
光一からはハルカの姿は見えない。
剛はハルカに微笑みかけたまま、光一を抱きしめていた。
赤い光が光一の後頭部に合わせられる。
― サヨナラ。 ―
銃声が空を切った。
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