銃口越しに貴方の顔を見たとき、どれだけ僕が狼狽えたか分かりますか?



もう二度と逢うこともないだろうと想っていた貴方が目の前に姿を現したとき、



あの頃よりも成長し、より綺麗になっていた貴方でしたが



意志の強いあの瞳の輝きと、微かに聞こえた貴方の声は昔と変わらず、僕の胸を締め付けました。



貴方は言います。



『お前を助ける』と。



僕は答えます。



『一緒には行けない』と。



それでも貴方は僕の腕を力強く握り締めて



『お前を連れて行く』と笑います。



あの頃と同じあの笑顔で。



けれど












けどね。僕は一緒には行けないんだ。



昔のようにキミを愛すことは出来ないんだ。



僕は僕ではないから。










僕は一度、信じるものに裏切られてしまったんだ。



そして



『信じるものを消す』術を手にいれてしまったんだ。



愛する者さえも消してしまう、邪悪な剣を。


















だから、ねぇ。光一。
































  




         ――――― 今ノ僕ヲ信ジナイデ。 ――――――
























closing eyes〜瞳を閉じて〜

20:闇 〜In the dark 〜
























「え?」

長い廊下を走っていた光一の足がピタリと止まった。

手を握り走っていた剛もまた立ち止まり、不安そうに光一の顔を覗き込む。

「剛、お前今なんか言うたか?」

光一の問いに剛は不安げな表情のまま首を横に振った。

「何か聴こえたん…?もしかしたら…僕が逃げ出したこと…もうバレてもうたんかもしれへん。」

剛は何かに怯えるように身を縮めると、光一の手を握る力を強める。

子供のような行動に光一はクスリと微笑むと、数回剛の髪を撫でた。

「大丈夫や。絶対まだバレてへん。それに何か騒ぎがあったらこの無線に連絡が入るはずや。」

光一はそっと上着を裏返すと、縫い付けられた無線機を見せる。

剛は驚いたように目を見開き、無線機をじっと見つめた。

「誰から連絡が入んの?」

「あぁ、中に知り合いの科学者がおるんや。そいつに何かあったら連絡してくれるように頼んでんねん。」

「…それって男?それとも女?」

剛は訝しげに光一の顔を見る。

「男やけど……どうかしたん?」

光一が首を傾げながら問うと、剛は頬を微かに紅潮させ、俯いた。

「やって。女の人やったら……光一の彼女とかかもしれんやんか。」

急にしおらしくなった剛に光一は苦笑すると、くしゃくしゃと黒髪を掻き乱した。

「彼女なんておるわけないやん。けど…俺に彼女がおったら何か不都合でもあるんか?剛」

光一の言葉に剛はますます頬を染めると、『別に』とだけ呟いて顔を背けた。

その行動にも光一は苦笑し、強く剛の掌を握る。

まるで片時も離さないとでも言うかのように、しっかりとその手を掴んだ。

「ま、あとで詳しく聞いたるし、それに俺も言いたいことがあるからな。それまで我慢しといたるわ。」

光一は微笑むと、再び走り出した。

それに引かれ、剛も走り始める。








長く暗い廊下の果ては、砂埃舞う外の世界への出口。

その出口を示す、薄い光を辿って光一たちは走り始めた。





















外の世界への扉から漏れる光は段々とその輝きを強くしていった。





































光一たちが走り去ってまもなく、一人の男がその場に現れる。

白い肌に長身。その男は廊下に落とされた小さな金属を拾い上げて、不気味に笑った。

暗闇の中、声を殺して笑う男は、ハルカ ―――

ハルカの拾い上げたものそれは小さな無線機だった。

それは赤く点滅し、機能していることを知らせる。

「堂本光一……もしかして気が付いたのか。これは、実に面白い展開になってきたな。」

喉で笑うその声は廊下に鈍く反響した。

「さぁ、どうする、光一くん。ツヨシはさすがの君でも落とせない。そう…ツヨシは…ね。」

ハルカはその金属をくしゃりと潰すと、再び廊下の端へと投げ棄てた。

「もうGAMEは始まっているよ。あとは君一人だけ…さぁ、どうやってこのGAMEをクリアするつもりだい?」

隙間から漏れる微かな光が、ハルカのもう片方の手に握られているものを照らし出した。

ハルカの手に握られていたもの、それは











1本の長い日本刀 ―――










柄には薄く血が滲み、微かな鉄錆の香を放っていた。

ハルカが歩みを進めるたびに、カチャ と寂しげに啼く。

愛しい持ち主の名を呼ぶかの如く ――――











ハルカの静かな笑い声が廊下の壁を揺らす。










少しずつ少しずつ












何かが狂い始めていた。






























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