「お、お前ら…どうしてここに入ってこれたっ!!!」

恐怖に引き攣った顔で一人のポリスが叫ぶ。

きょろきょろと忙しなく動く瞳は目の前に立ちふさがる男たちと武器を見ていた。

「さぁ。何でやろな。門番が居眠りしとるからやないか?」

見下したように笑う男は恐ろしく綺麗な顔立ちで銃口を向けていた。

「何ならおじさんも今のうちに居眠りしとく?その方が痛い目見なくて済むかもしんないぜ?」

長身の男は日本刀に伝う血糊を払うと、その切っ先をポリスの喉元に翳す。

「そうだよ、おじさん。とてつもないM体質なら痛くしてあげてもいいけどさ?」

無邪気に笑う少年にポリスは底知れぬ恐怖を感じ、その周りにいる男たちも微かに溜息をついた。

「と、とにかく。おじさんもこんなちっこい奴に負けたくないでしょ、大人として。だったら負けそうな勝負はやめといたら?

 大丈夫、そのまま知らん顔して居眠りしててくれれば悪いようにはしないから。」

一番年上であろう男は微笑むとポリスに近づいた。

「つことで、おじさん。ここの扉の鍵渡して」

「誰にも渡しはせんっ!この扉を護ることが私の使命!そう簡単には屈しな」


カチャ ―――


「こっちが下手に出とればええ気になって。俺らはあんたにお願いしとるんやない、命令しとるんや。

 その空っぽそうな頭に穴開けて欲しくなかったら、さっさこのくそ邪魔な扉の鍵、渡さんかいっ!」

「ひぃぃぃぃっ!!」

男はポリスの眉間に拳銃を突きつけると、そのまま引き金を軽く引いた。

「どうや。渡すんか渡さんのか。それによっては次に目ぇ冷める時にはこの世界には存在してへんで?」

「私はぁっ!ここを護るのが使命で」

「じゃあしゃあないな。その使命、最後まで果たして…逝けや。」











『バンッ!!!!!』













closing eyes〜瞳を閉じて〜

17:始まりの扉

















「・・・・惨いな・・・」

「あぁ・・・・・・・酷すぎる」

長瀬は目の前で倒れているポリスに合掌をし、玲は口元を押さえて俯いた。




「うっわ〜、ちょっと脅かしただけなのに。おじさん弱いなぁ〜。」

悠は白目をむいて気を失っているポリスを突付くと、心底驚いたように溜息をついた。

「・・・・・・・・・・・・・・こいつ…まだ殺された方がマシだったんじゃないの…光一?」

気を失っているポリスは口をぱくぱくと動かし、先程まで威厳と誇りを持っていた容貌は消え失せ、涎を垂らしている。

「引き金額に当てられて『逝け』って光一に睨まれて、その上後ろから悠の『バンッ!』攻撃に脳天パンチ一発…」

「…世も末だな…」

玲と長瀬は、飽きもせずポリスの身体を突付く悠と銃口に付いたポリスの汗を制服で拭う光一を交互に見て呟いた。
















































ガチャ


重たい扉を固く閉じる錠を解く。


「うっわ……何、これ」


先に続くセメント固めの廊下に無数の扉。


「…入るで…」


光一は拳銃を握りなおすと、ゆっくりと先へ進んだ。




ガチャン







重たい扉が閉まる。


完全に外からの光が遮断された廊下は人工的な光に包まれていた。













人工的な光とはこんなにも無機質なものだっただろうか。












「・・・なんか…冷てぇな……」

気温が下がったわけじゃない。それでもセメントと蛍光灯が織り成す空間は外の世界よりも冷たかった。

「俺がE.P.してる時もこんな感じだったけど………余計に…何かが」













「それは君たちが生温過ぎるからじゃないのか?千桐玲くん……いや、No.00030。裏切り者の千桐玲。」

「誰だっ!?」

「久しぶりだな。お前がこっちを裏切ってから大変だったよ。」

「・・・・B・・・・」

玲は物陰から姿を現した男に一瞬驚愕すると鋭い眼光で男を睨みつける。

すると男は肩を竦めて見せ、口端で笑った。

「そう怖い顔をするんじゃない。私はただお客人を招待するために来ただけだ。そこの”堂本光一くん”をな。」

「光一…を?」

光一は微動だにせず、怪訝そうに眉をひそめた。

悠と長瀬は不安そうに光一とBへ交互に視線を彷徨わせる。

「堂本光一くん。君の逢いたい人物に会わせてあげよう。剛に。」

「何やと?」

剛の名前に光一は更に眉間の皺を深くした。

するとBはゆっくりと突き当たりの扉を指差す。

「あの部屋の向こうに剛はいる。しかし、逢うためには一つ条件がある。堂本光一、君しか彼に会うことは許されない。」

Bは怪しい微笑を浮かべたまま、ゆっくりとまた光一を見た。

「どうなさる?お客人。」







光一の頬を冷たい汗が下る。

Bは相も変わらず企てているような笑顔で答えを待っていた。

「…光一。絶対になにかある。止めといた方がいいぜ。何ならこいつをぶっ飛ばして、4人であそこに」

「無論。私を突破していくとお考えならばそれでもいいが、私の意識が無くなることで剛の命は消える。」

Bは薄く笑うと、眼を細めた。

「私の瞳の中には特殊なコンタクトレンズが入っている。これが私の意識の有無を読み取り、

 意識が途絶えた時、剛の胸につけられた爆弾が彼を粉々に砕くという仕組みだ。まぁ、信じる信じないは君たちに任せよう。」

「…それは俺らを脅しとるつもりか…」

「さぁ。どうだろうな。どちらにせよ選択するのは君たちだ。私は選ばれた一人を案内するのみ。」






嫌な笑顔のままBは言う。








与えられた選択肢は二つ。
















罠だと承知した上で光一があの扉へ向かうか。




それとも………







一度固く拳を握り締めて、光一は小さく息を吐いた。





「わかった。俺一人で行くわ。それでええやろ?さっさと案内せぇ。」

「光一っ!?」

慌てる長瀬に光一はゆっくりと近づいて耳打ちをする。

「どのみちここまで来とるんや。今更危険やからって躊躇っとる場合やない。それに」






「絶対に剛を取り戻すって決めたんや。後戻りなんかしたくないわ。」






「光一・・・」

一人で先へ進む。それがどのくらい危険かなんて考えるまでも無かった。

それでも光一は悪戯っ子のような瞳で微笑み、唖然とする長瀬の肩を叩く。




「ちゃんと剛連れ戻して見せたるから。そん代わり、この中の誰かが死んどったら俺は指差して笑ったるから覚悟しとけや。」








「それではそろそろいいかな、堂本光一くん。」

「あぁ。いつでもええで。」

「それじゃあ………他の者たちは…ここでお別れだ。」

「えっ!?」






ガンッ ―――






突如4人の間に降りてきた壁は光一と3人を完全に隔離した。

降りてきた壁は廊下と同じセメント造り。

「っ!長瀬!玲、悠っ!!」

何度壁を叩いても反応は無く、厚いその壁は向こうの音全てを遮断しているようだった。

人工的な光の中、Bが歩みを進める。

光一は悔しそうに舌打ちをして壁を一つ殴ると、Bの後を追った。



































お互いに無言のまま無機質な廊下を進み、突き当りの扉の前までついた。

Bは扉の横に設置されている小さな画面に指先をつけて、鍵を開ける。

機械的なアナウンスと共に扉の奥でカチャリと音が鳴った。


「さぁ、堂本光一くん。運命の再会だ。君の手で彼の胸元の爆弾を取り除いてあげるといい。」

Bは懐から小さな鍵を取り出すと、光一の掌に握らせる。

「安心するといい。私たちは手を出さない。約束しよう。」

薄ら笑いのままBは言うと、一歩後ろに下がった。

「もちろん部屋の中には剛ひとりだ。我々は何も邪魔しない。今だけは二人で再会を喜び合うんだな。」





金属製のドアノブに手を掛ける。

その煌きは人工的な光に照らされて、冷たく掌に残った。













小さく深呼吸をして、扉を押す。




薄く開いた扉の隙間から、




こちらに瞳を向けている剛が見えた ――――


































サァ、GAMEノハジマリダ 





























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