収録開始前の待ち時間。

剛はヘッドフォンを耳につけ、音楽を聴いていた。

最近専ら聴くのは、ソウルなどの洋楽。

けれど、なにか心にもやもやが溜まるたびに聴いていたから………



「もうこの曲聴くの何回目やろう……」



剛はヘッドフォンを耳から外すと、小さく溜息をついた。


― 光一という一番の精神安定剤がいない ―


舞台にソロコン、二つの大きな仕事を抱えて、光一と会う時間なんか収録のときくらいのもの。

声なんて、ここ最近全く聴いていない。

『寂しい』なんていうのは自分勝手なことだと思うけど

やっぱり…………………寂しい。




ウォークマンの中に入っていたMDを取り出すと、自分のカバンの中から他のMDを探した。

何枚かあるMDの中に一枚のケースに入ったMDを見つける。

「これ………初回録ったやつやん…」

取り出してみるとそれは一番最近出した曲の『初回版』が録音されているMDだった。

いつもはあまり自分たちの曲を聴くことは無いんだけれど、今回の楽曲は好きなアーティストさんが書いてくれたものだから

自分たちのCDを業者の人から貰って、MDにおとしていた。

「きっとMD入れたとき一緒に入ったんやろな。」

剛はそういうとMDをカバンの中に仕舞おうとした…………


が、その手を途中で止め、MDをウォークマンの中に入れる。

『再生』を押すと、小さな機械音を立ててディスクが回りだした。





短いイントロのあとに流れる………光一の歌声。

初回版だけに入っている、光一の声のみの曲。

その声に思わず、聴き入っていた。





光一が歌うたびに胸が躍る。

まるで自分に優しく言葉を囁いているようで………思わず涙が出そうになった。





曲もサビを向かえ、二番にさしかかろうとしたとき、ふと耳から音が消える。

顔をあげると、不機嫌そうな顔をした光一が立っていた。

手には今まで剛がしていたヘッドフォン。



「あ。光一。おはようさん。」



にっこりと笑顔で言って光一の手からヘッドフォンを奪おうとしたが、光一はヘッドフォンを剛の手が届かないところまで高く上げ

剛の手は空を切る。


「ちょ、おっさん!それ返しなさい!僕のじゃないですか。」


それでもなお立ち上がって取り返そうとする剛に光一は更に眉間の皺を深くすると、立ち上がった剛を抱き寄せた。


「うわぁっっと!!」


イキナリのことに剛はバランスを崩し、光一の胸の中へと倒れこむ。

すると光一はスグに剛の顎をくいと持ち上げ、その唇にキスをした。


「んっ!?」


深く光一の舌が剛の口腔内を滑る。

剛は息苦しさと久しぶりの感覚に膝で支える力を失くし、そのまま床に座り込んだ。


「っと!イキナリなにすんねんっ!」


少し潤んだ瞳で見上げれば、なおも不機嫌な王子様。


「お前がこれ聴きながら幸せそうな顔しとるからいけんのや。」


そういってウォークマンまでも取り上げると自分のポケットの中に入れた。


この王子は ―――― ウォークマンにまでも嫉妬をしたというのだろうか ――



「何の曲聴いてたん?」


そういって光一はヘッドフォンを耳に持っていく。


「あぁっ!ちょ、待てっ!!」

間一髪のところで剛はヘッドフォンを取り上げる。


薄く聴こえてくるベース音からまだ曲が終わっていないことがわかった。



『光一の声聴いてたなんて……なんか変な奴みたいやんかっ;』



剛は心の中でそう叫びながら光一のポケットの中に入っている本体の方にも手を伸ばした。


しかし案の定。その手はあっさりと光一の手によって阻まれてしまう。

こうなってしまっては剛に勝ち目はない。

首にかけたヘッドフォンからは相変わらずあ曲のベース音。


『そやっ!停止ボタンだけでも!!』


剛はヘッドフォンのコードについているリモコンを探すと、停止ボタンを押した。



はずだった



♪ 〜♪〜〜〜♪〜〜〜



最大音量で聴こえてくる光一の声。

剛はその場で思わず固まってしまった。

嫌な予感がしてゆっくりと自分の指先を見てみれば、音量増加ボタンを押していた。

しかも無意識のうちに長い時間押していたため、音量は最大。

首にかけたヘッドフォンからは耳をふさいでも微かに聴こえてくるほど大きな音で、光一の声が響く。


『バレた………ですよね……』

剛は恐る恐る光一の顔を見上げた。

そこには顔面総雪崩。王子がオヤジな光一さんの顔。

『やっぱり……バレてる……(涙)』


先程の不機嫌な顔は何処へやら。光一はご機嫌な顔で剛の首もとのヘッドフォンを触った。



「そんなに俺の声が聴きたかったんやったら、電話すりゃよかったんに。」



満面の笑みで剛の頭をくしゃくしゃと撫でると、額にキスを落とした。


光一はリモコンを剛の手から優しく奪うと、『巻き戻し』のボタンを押す。

するとヘッドフォンからは剛のみの声が聴こえてきた。

改めて聴く自分の声に少し恥ずかしさを覚えて俯くと、光一はその顔を上に向かせてもう一度キスを落とした。



「つよの歌っとる声ってめっちゃ色っぽいねんな。まぁ、あの時の声が一番やけど」


光一はにこやかに言うと、剛の唇に指を這わすようにして撫でた。

そして3度目の口付けを落とす。



蕩ける様なキスの嵐に剛が浸っていると、光一は剛の服を肌蹴させ首筋にもキスを落とした。

そこでようやく剛の意識が急速に戻ってくる。


「ちょっと!光一!今から本番!ここ楽屋!おまえ何するつもりやねん!!」


剛が両腕で光一の身体を離そうとしたが無駄な疲労感を感じさせるだけだった。

顔を赤くして睨んでいる剛に光一は顔を雪崩させると次は肩に口付けした。


「んっ!……こら!おっさん!!!やめんかい!ボケ!!」


剛は光一の頭を叩くと、肩口に埋まっている光一の顔をぐっと押し戻した。


「なんやねん!折角久々につよを堪能しようと」

「せんでええ!せんで!それよりもうちょっとで本番やんか!スタッフさんもそろそろ呼びにくるんちゃうん?」

光一はその言葉に『あぁ』と納得すると、壁にかかっている時計を見た。

剛は何とか難を免れたと胸を撫で下ろしていたが、次の瞬間床に押し倒されていた。

「はぃ?;」

あまりに突然の出来事で剛の思考回路はうまく働かない。

その間にも光一は剛の服を次々と肌蹴させていった。


「おぃ!人の話聴いとったん!?今から本番」

「やない。」

光一は一度顔を上げて言うと、今度は剛の胸元へと唇を這わせた。


「あっ………光一、やめぇって。」

剛は力の入らなくなってきている腕で光一の頭を除けようとすると、光一は少し不満そうに顔を上げた。

「なんやねん。」

「や…から本番もうすぐやって。」

剛は熱くなってきている身体を抑えて、起き上がろうとしたが光一に両肩を押さえ込まれ動けなかった。

「ちょ、離せ。動けん。」

「動く必要ないやん。まだ本番始まらへんよ。」

「へ?」

剛は素っ頓狂な声を上げると光一を見た。

「なんや最初のゲストさん。前の仕事が長引いてるらしくて、1時間ぐらい遅れることになるらしい。他のゲストさんには

 決まってた時間でスケジュール組んでもろうとるから、今更変更できへんからって。始まる時間が延びたんや。」


「やから……まだ時間はたくさんあると……」


「そゆこと。よおわかっとるやんvそれでは、いただきます。」



光一はわざとらしく剛の前で合掌すると、胸元に口付けた。

「……なぁ、光一…」

剛が光一の行為を再び腕で止めると、光一は『まだなにかあるのか』という顔で剛を見た。


顔を赤らめたまま剛は潤んだ瞳で光一を見る。


「何や。まだ何かあるんか?」

光一は剛の誘うような表情に理性が吹き飛びそうになるのを抑えながら、出来るだけ優しく(?)聞いた。


すると剛はすこし躊躇ってから光一の耳元で囁く。



「本番中。腰立たへんようになるのだけは勘弁やからな…」



そのあと剛はこれ以上ないほどに真っ赤な顔をして、光一から視線を逸らした。


その言葉に光一はしばし止まっていたものの、すぐに顔を雪崩れさせて剛の赤い頬にキスをした。




「了解いたしました。お姫様。」



光一の優しい言葉の響きに剛は視線を戻すと、綺麗に微笑んだ。



















収録前のスタジオでは、


来た時よりもご機嫌そうな光一と、少しはにかんだ笑顔を浮かべた剛がいた。







言い訳★

際どい〜(笑)

なんだか大変そうになる話を必死に際どいところでやめました。

夜のテンションってこわひ。

あったかい話にしたかったけど、なんだか最終的に何が言いたかったのかよく

わからなくなってしまいました。

とにかくイチャイチャさせたかったんです!もうバカッポーぶりを発揮させたかったんです!(本音)

甘々ぶりは出せたでしょうか?